たのしみは艸のいほりの莚敷きひとりこころを静めをるとき
たのしみは珍しき書人にかり始め一ひらひろげたる時
たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外に能くかけし時
たのしみは妻子むつまじくうちつどひ頭ならべて物をくふ時
たのしみは空暖かにうち晴れし春秋の日に出でありく時
たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時
たのしみは常に見なれぬ鳥の来て軒遠からぬ樹に鳴きしとき
たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき
たのしみは物識人に稀にあひて古しへ今を語りあふとき
たのしみはまれに魚烹て児等皆がうましうましといひて食ふ時
たのしみはそぞろ読みゆく書の中に我とひとしき人をみし時
たのしみは書よみ倦めるをりしもあれ声知る人の門たたく時
たのしみは銭なくなりてわびをるに人の来たりて銭くれし時
たのしみは昼寝目ざむる枕べにことことと湯の煮えてある時
たのしみは機おりたてて新しきころもを縫ひて妻が着する時
たのしみは三人の児どもすくすくと大きくなれる姿みる時
たのしみは小豆の飯の冷えたるを茶漬けてふ物になしてくふ時
たのしみは好き筆をえて先づ水にひたしねぶりて試みるとき
たのしみは庭にうゑたる春秋の花のさかりにあへる時時
たのしみは数ある書を辛くしてうつし竟へつつとぢて見るとき
たのしみはふと見てほしくおもふ物辛くはかりて手にいれしとき