つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく書き付くれば、あやしうこそもの狂ほしけれ。(序段)
よろづにいみじくとも、色好まざらむ男は、いとさうざうしく、玉の巵の当なき心地ぞすべき。(第三段)
世の人の心惑はすこと、色欲にはしかず。人の心は愚かなるものかな。(第八段)
独りともし火のもとに文を広げて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。(第十三段)
よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそいみじけれ。(第七十九段)
偽りても賢を学ばむを賢といふべし。(第八十五段)
女のなき世なりせば、衣紋も冠も、いかにもあれ、引き繕ふ人も侍らじ。(第百七段)
寸陰惜しむ人なし。これよく知れるか、愚かなるか。(第百八段)
よき友三つあり。一つには物くるる友。二つには医師。三つには智恵ある友。(第百十七段)
花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。雨に対ひて月を恋ひ、垂れこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。咲きぬべきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ見どころ多けれ。(第百三十七段)
人の命ありと見るほども、下より消ゆること雪のごとくなるうちに、営み待つこと甚だ多し。(第百六十六段)