私家集。三巻。
歌数約千五百五十首を、四季・恋・雑に分類して収める。旅や草庵の生活で得られた感慨を
有名な「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」はこの歌集に収録されている。
世の中をそむきはてぬと云ひおかむ思ひしるべき人はなくとも
吉野山さくらが枝に雪ちりて花おそげなる年にもあるかな
わが涙しぐれの雨にたぐへばや紅葉の色の袖にまがへる
あくがるる心はさても山桜ちりなむ後や身にかへるべき
桜さく
雨しのぐ身延の郷のかき柴に巣立はじむる鶯のこゑ
身を分けて見ぬ
鹿の音をかき根にこめて聞くのみか月もすみけり秋の山里
いかでかは散らであれとも思ふべき
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになり行く我が身なるらむ
もろともに我をも具してちりね花うき世をいとふ心ある身ぞ
緑なる松にかさなる白雪は柳のきぬを山におほへる
いとふ世も月
ゆくへなく月に心の
竹の音も荻吹く風のすくなきにくはへて聞けばやさしかりけり
捨てし折の心をさらにあらためて見る世の人に別れ果てなむ
わか菜つむ野辺の霞ぞあはれなる昔を遠く隔つと思へば
花にそむ心のいかで残りけむ捨て果ててきと思ふわが身に
捨つとならばうき世を
心なき身にもあはれは知られけり
世の中を捨てて捨て得ぬ心地して都はなれぬ我が身なりけり
さびしさに堪へたる人のまたもあれな
年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり
捨てたれどかくれて住まぬ人になれば