平安時代の歌物語。作者不明。
それぞれの冒頭が「昔、男……」で始まる。各時代を通じて愛読され、後代文学への影響も著しい。別名『
昔、男
この男かいまみてけり。おもほえずふるさとにいとはしたなくてありければ、
男の着たりける
春日野 の若紫 のすり衣 しのぶのみだれかぎり知られず
となむおひつきていひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけむ。
みちのくのしのぶもぢずり
誰 ゆゑにみだれそめにし我ならなくに
といふ歌の心ばへなり。
昔、男
「この戸あけたまへ」とたゝきけれど、あけで歌をなむよみて
あらたまの年の三
年 を待ちわびてたゞ今宵 こそ新枕 すれ
といひいだしたりければ、
梓弓 ま弓槻 弓年をへてわがせしがごとうるはしみせよ
といひて
梓弓 引けど引かねど昔より心は君によりにしものを
といひけれど、男かへりにけり。女いとかなしくて、しりにたちておひゆけど、えおひつかで
あひ思はで
離 れぬる人をとゞめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる
と書きて、そこにいたづらになりにけり。(二十四)